アナログ盤の元(マスター)音源がデジタルの場合

    先日、コメント欄に次のように質問があった。

    > 近年リリースされているレコードはアナログマスターではなくデジタルマスターとか
    でもそれって型はレコードでも中身が違うような気がしますし
    ファンを大切にしていないような気がしますが
    JDさんはどのように捉えられていますか?

    コメント欄で返事を返すには長くなりすぎたので、思うことを書こうと思った。
    *実際かなり長くなってしまった。



    アナログ盤の元(マスター)音源がアナログでなく、デジタルだったとして、それってどうなの?と思えるのは、本来はアナログマスターを使ってカットされていたレコードが対象となる。

    70年代後半ぐらいから徐々に出ていた元々デジタル録音だったレコードの場合には、特に違和感を覚えないだろう。


    では、大元がアナログマスターなのに、それをデジタル変換したマスター、デジタルマスターを使ってカットされたレコードをどのように捉えるか?
    これにはいろいろな視点からの判断が必要かなと思えた、というのが正直なところ。

    ここで、アナログ→デジタル→アナログという変換過程を経て製造されたレコードを便宜的にADAレコードと呼ぶことにし、逆に、全てのプロセスを昔ながらのアナログで製造したものをAAレコードと呼ぶことにする。

    まず、「ADAだから駄目」とは僕は思っていない。同様に「AAだから良い」とも、必ずしも言えないと思う。
    つまり、最終形としてのアナログレコードそのものがどういうクオリティ(音質、盤質)で製造されているかが重要であって、僕自身はプロセスだけで良い・良くないと振り分けはできない、そう思っている。

    まず、AD変換の際には、アナログマスターをどれほど高音質で再生できたかによって、それのコピーとなるデジタル音源の音質が左右されるわけで、そのあたりに気を配った機器を使用しているか否かによって音が随分違ってきてしまう。

    同様に、使用するマスターテープが第一世代のものか、第二世代のsafety copyか、あるいは、さらにそのコピーか、などによっても音質が変わってくる。
    場合によってはオリジナルマスターよりも劣化が少ないsafety copyの方が音質が良いと判断される場合もありえる。

    結局、レコード製造者の思想なり拘りがどこにどれだけあるか。
    そして、目的となるレコードを作るためにtape reserchなどを含めどれほど時間や労力をかけて挑んだかというのが、最終のレコードに現れると思っている。

    その中でADAかAAかの選択は、使用する設備やエンジニアの経験にも左右されるだろうし、テープの録音状態からするとADAの方がマスターテープの音を再現しやすいという場合があるかもしれないし、あるいは音を補正することによりアナログ初期プレスの音を再現できるかもしれない。

    少なくとも、現時点でのマスタリングスタジオの機器を想定すると、一度デジタル変換した音源を調整するほうが自由度が高く、コストも抑えられるように思える。

    質問に戻ると、
    >型はレコードでも中身が違うような気がしますしファンを大切にしていないような気がしますが

    僕はデジタル変換そのものを否定はしないので、できたレコードの音から判断する立場かなと思える。

    良い音であれば、それはちゃんとマスターを尊重したということだろうし、逆に結果として改変されていたり劣化していたりであれば、余り良くないプロセスだったということで。


    さて、もう一つ質問があった。

    > 盤起こしですが例えばビートルズのプリーズプリーズミーの
    ゴールドパーロフォンのニアミント盤があったとして
    それを元にレコードを作ったらいいモノが出来そうな気がするのですが
    それは理論的に無理なのでしょうか?

    アナログ再生の場合、仮にミント状態のレコードであっても、再生側(ターンテーブル、アーム、カートリッジ、フォノイコ、ケーブル)がどのような音を出すシステムなのかによって、音質が全く変わってしまう。

    よって、狙った音を現物のレコードから引き出すために使用機器を選定し、再生信号を記録すれば(デジタルでもアナログでも)、少なくとも記録された音声信号は、元の盤を特定の機器を通して再生した音となる(なっている)はず。

    だから、理論的には元の盤と同じ音と言えなくはないけれど、作り手によって狙った音が違っていたならばどうか?という問題はある。

    例えば、僕が思うにアナログ再生には(大別すると)2種類の姿勢がある。
    一つは、できるだけレコード盤が製造された時代のシステムを使って再生するのがベストととらえ実行する姿勢。
    もう一つは、現在手に入る機器で(予算範囲内で)最高品質の音の再現を狙うもの。

    前者の再生システムだといかにも当時っぽい音で聞こえることとなる。
    今の耳ではナローレンジで低域が出ていないように思われる場合があるが、出てくる音はまさにスピーカーから実際の音が出ているみたいな音。

    後者では低域から高域まで幅広いレンジで再生できるだけでなく、当時の機器ではなしえなかった驚くほどの情報量を引き出せる場合がある。再生音は、録音現場の再現とでも言うような空間情報までもが再現できる可能性がある。

    両者の異なったアプローチによるレコード再生から記録された音声信号は、前者の場合、その時点でナローレンジの可能性があり、それではレコードの音溝に記録された情報の一部しか拾えていないかもしれない。

    盤起こしをやるのであれば、前者よりは後者のアプローチの方が良いのではと僕は思うが、できるだけそのままの信号を拾えるのがベストであって、この時点での情報欠損や音の偏りは避けたいところ。

    但し、録音年代、録音品質、カッティング品質によって、高域と低域をカットしてあるレコードもそれなりにあり、この場合、前者のほうが誰が聴いても音が良いと思う場合もありえるかも。


    では次に、記録した音声信号を使って、どのように新たな盤をカットするのか?
    ここにおいても、当時の盤に近いものにするのか、あるいは盤起こしの時点で情報が欠損していると考え、それならば保存した情報をできる限り再生できるよう最新の技術を駆使してカッティングするのか、などなど、やはり作り手の理念や姿勢によってできあがりが変わってくることになる。

    となれば、理論的に100%可能とは言えないけれど、それを「無理」と定義してしまうのはどうか?と思えなくも無い。

    ブートCDで当時のLPの盤起こし音源があるが、あれは僕の推測ではデジタル録音後にフィルター処理にてスクラッチノイズを軽減、低周波やその他のノイズを除去して、音を整えた後のもの。

    当然、元のレコードを再生した機器の能力に応じてデジタル化されているので、ハイエンド機器を使用しているユーザーからすれば、盤起こしにて記録された音声信号時点で普段聴いている音質のグレードに及ばないと言う意見が出るだろう。

    例えば、09remaster以前のBeatlesの「Love me do」のシングルテイクのCD(あるいはレコード)だと、僕のところでもオリジナルシングルを再生したほうがずっと高音質だった。
    それも同じことだ。

    なので、盤起こしについても技術的、感性的な側面から音が変わってくると思われ、ミントコンディションの盤から作ったとの話であっても、=元の盤と同じ、とは言えない。
    けれども、かなり良いものが作れる可能性はない、とも言えない(苦笑)。

    *Jimyna Pageさん、ご質問どうもありがとうございました


    関連記事
    スポンサーサイト

    テーマ : 洋楽ロック
    ジャンル : 音楽

    コメント

    Secret

    JDさん今日はこの度は私の拙い質問を早々とブログの記事として取り上げて下さりありがとうございます。懇切丁寧な解説ありがとうございました。ありがたいのはもちろんですが JDさんの貴重な時間を私の拙い質問の為に割いて下さり申し訳ない思いです、心より感謝申しあげます。私の疎外な疑問が私の理解力が足りないせいで完全には理解出来ませんが
    DJさんの丁寧な解説で私なりに理解出来、疑問が解けたような気がします。この度は誠にありがとうございました、失礼致します。

    Re: タイトルなし

    Jimyna Pageさん、こんばんは。
    直球的な回答ができず、こちらこそすみません。

    アナログファンの方の中には僕と違ってデジタルマスターから作られたレコードを毛嫌いする人も中にはいるようです。理由としてはレコードなのにCDみたいな音がするからのようです。

    しかし残念ながら、僕の使っているアナログ機器では、アナログマスターから作られていても(CDでなく)SACDっぽい音に聴こえることがそれなりにあり、そこから判断すると、大本のマスターテープに近い音だとメディアの垣根が無くなってくるだけのことではないかと思えるのです。

    僕の機器だと巷で言われるような、いかにもアナログっぽいと思われている丸い音には聴こえません。僕はアナログレコードの音をそのように捉えたことは一度もありません。

    なので、デジタルマスターを使っていてもちゃんと作ってあるレコードなら全く問題ないと思っています。
    こちらのほうがわかりやすい答えだったかもしれませんね(笑)。
    プロフィール

    JD

    Author:JD
    自分の感覚としては(昔の?)ラジオDJのネット版のようなもののつもり。僕は1970年代のオーディオ全盛期の最後に属する世代で、ペアマイク持参で生録に挑戦した世代。国内盤LPが高価だったので輸入盤を買っていた、そういう中高生時代を過ごした。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    カレンダー
    05 | 2017/06 | 07
    - - - - 1 2 3
    4 5 6 7 8 9 10
    11 12 13 14 15 16 17
    18 19 20 21 22 23 24
    25 26 27 28 29 30 -
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR