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    新たなBeatles神話は作らないで欲しい

    *2/19 Les Paulに関わる部分を補完した。
    *2/7追記:拍手のうち1つは間違いでボタンが押されたもの・・・。


    Beatlesの偉業は確実に数多くあるのだが、Beatles絶対主義的な人たちが勝手な神話を、特に新しい神話を作り上げることに僕は反対している。

    特にその色合いが強いのが「大人のロック」誌だと思う。
    なので、ことあるごとにおかしな点を指摘せざるを得ない。しかも僕はわざわざ購入してまで指摘しているのだから、出版社からすれば“いい鴨”だと思う。

    先日この号の記事に苦言を呈したが、他にも気になった点、特に録音に関わる部分について記しておきたい。
    cover.jpg

    今回は「A hard days night」「Beatles for sale」の記事で書かれていることを客観的に見るための予備知識として使ってもらいたく記す。


    まず、英国はステレオの普及が遅かったため、録音機材についてもマルチトラックレコーダーの導入はアメリカのほうがずっと早かった。
    Abbey roadのEMI スタジオのスタッフが苦労して4トラックレコーダーを2台同期させようとしていた67年より2年も早い1965年時点でアメリカでは8トラックレコーダーが大手のスタジオで使用されている。
    Beach boysやMotown の65年の録音は8トラックレコーダーで行われている。

    実際にテープレコーダーを使ってマルチトラック録音をやり始めたのはアメリカ人のギタリストのLes Paulで、一人で多重録音するためにマルチトラックレコーダーをわざわざ特注し作らせている。1950年代の話だ。
    なんとその時点で6トラックレコーダーとも8トラックレコーダーとも言われている。
    *追記:正確には1957年に8トラックレコーダーをAMPEXに特注で作らせた。同年にAtrantic recordにも納品された。

    なので、ミキシングに比重を置くような録音作業そのものはアメリカではBeatles以前に始まっていたわけで、そういう機材を使っていなかった英国のスタジオは、逆にシンプルな録音に徹していたとも言える。

    そしてトラック数が少ないゆえに最終の音作りに苦労し、「Kansas city~Hey hey hey」のように、結局、4トラックを導入してもマルチトラックテープに録音した音だけでは物足りなく、Tape to tape作業をしながらStereoバージョン、Monoバージョンと2度もピアノを同時演奏して録音せざるを得なくなっている。「4トラックでは不足となる多重録音を行った」のは、最後のピアノなしでは単調と感じられたからだろう。
    *このTape to tape作業をしながらの演奏は、英国ではそれ以前から普通に行われていたわけなので、特にすごいことでもなんでもない。ここでの記事もそのように書かれている。

    4トラックレコーダーの導入でミキシング重視のスタイルを確立したとあるが、それは別に誰だってそういう機材が手渡されるとそうなる話であって、特にBeatlesの録音スタッフが優れていたからミキシング重視のスタイルになったわけでもなんでもない。
    これまでできなかったことができ表現力が広がるのだから、できるだけ装置を十分に使い切りたいと思うのは当然だ。

    ミキシング違いの別バージョンにしても、一例として挙げると、Elvis Presleyの50年代の映画で既にレコードバージョンと映画バージョンとは別のミキシングだった。なので、業界的には別媒体では別音源……これは当たり前だったと考えるのが妥当だろう。
    思い出せば、サントラ盤にはよくあったことだ。

    米国用ミキシングと英国用ミキシングとを分けていたのは、音質劣化を恐れて、何度も行ったトラックダウンテープの中から2つのバージョンを取捨選択した結果だろう。意図的にアメリカ用、英国用にミキシングしたと仮定するのは考察が足りないと思う。なぜなら、アメリカ用の音、英国用の音とに意図的な区別があるとは思えないからだ。

    例えば、片方は明らかにボーカルの音量が大きいとか、ギターが大きいとか何か同一のミキシング傾向があるならばそれは正しいと思えるが、そういう違いもなく、音質の違いは英米でのマスターテープの再生デッキやカッティングマシンの違い、レコードの材質の違いなど製造過程での差が大きく反映されているようにしか思えない。

    いろいろと思いつくことを記したが、何も知らずにあの本を読んで「Beatlesと録音チームは最先端だったんだ」などと思わないことを祈る。それは知識不足と言うものだ。

    最後に「Love me do」について。
    仕事で関わっている同年代の英国人に仕事以外の話として、日本で昔からよく言われるように「Love me do」の「do」は強調なのかどうか尋ねてみた。それは僕自身が昔から謎だったからだが。
    そして、帰ってきた答えが面白かった。

    まず普通に会話で、doを“強調”として使うことは100%ない。絶対に使わない。1960年代だけでそういう使い方が流行っていたということもない。

    そうでなくて、「Love me do」のdoはあくまで歌詞としてのdoで特に意味はないのではないか、とのことだった(笑)。

    どうしても何か意味を持たせたいのなら、日本で言う「強調」となるのかもしれないが英国人にとってはそれはこじつけっぽく、あくまでも歌詞にしか過ぎないとのこと。

    となると、「A hard days night」や「Tomorrow never knows」みたいなBeatles特有の言葉遊びの一つなのかなと思えた。


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    テーマ : 洋楽ロック
    ジャンル : 音楽

    コメント

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    No title

    JDさん こんにちは

    >Beatles絶対主義的な人たちが勝手な神話を、特に新しい神話を作り上げることに僕は反対している。

    全く同感ですね(笑)
    特に少し前の記事にあったカバー曲についてはそう思います。
    他のマージー・ビート系のグループをきちんと聴いていれば、BEATLESだけが特別珍しいカバー曲をやっていたなんてことは思わないはずなんですけどね。
    港町リバプールにはヒット・チャート以外の珍しい曲の流入なんかも確かにあったと思いますけど、それはマージー・サイドのグループ全てに共通した地域性みたいなものです。
    それでも絶対主義(笑)の人なら、それらは全部BEATLESの真似なんだ!なんて言いそうな気はします(苦笑)

    大事なのは曲が珍しいかというよりも、取り上げる曲のセンスの良さと、それをどうやって調理するかという部分だと思います。
    そういった部分では間違いなくBEATLESは特別だったと思いますけど、必要以上に美化しすぎるのは考えものですよね。

    Re: No title

    ポポスケさん、こんばんは。
    コメントどうもありがとうございます。

    > 他のマージー・ビート系のグループをきちんと聴いていれば、BEATLESだけが特別珍しいカバー曲をやっていたなんてことは思わないはずなんですけどね。

    そうですね。
    日本でのBeatles神話の定説の一つであるこの話は、情報量が少なかった時代に、ライターの知識が乏しかったゆえに作り上げられ一人歩きしたものだと思います。そして、Beatlesリアルタイム世代の人はそういう話を刷り込まれているので全く疑問に思わないのでしょう。

    でも、21世紀に新たに発売される音楽書籍であれば、過去の定説をそのまま記しているのでは発売される意味は全く無いと思います。それこそ内容は「再発」ですから。

    それに、これほど情報にあふれていて、調べようと思えばいくらでも調べられる状況にあるわけなので、やはり21世紀的な新たな視点とより客観的な視点が求められると僕は思っています。

    > 大事なのは曲が珍しいかというよりも、取り上げる曲のセンスの良さと、それをどうやって調理するかという部分だと思います。

    同感です。

    > そういった部分では間違いなくBEATLESは特別だったと思いますけど、必要以上に美化しすぎるのは考えものですよね。

    その通りですね。
    僕も中学時代にはBeatlesこそが全てだと思っていた時期がありました。
    しかしBeatlesを起点に幅広く音楽を聴くようになると、それまではあまりに情報がなく狭い世界でしかものが見れなかったと気づきました。
    今でもBeatlesは大好きですが、Beatlesを評価するためにはもっと多くを知らなければいけないですよね。
    特に書店に並ぶ雑誌であればなおさらだと思います。

    No title

    通りすがりの者です。

    "Love me do"  についてですが、これはやはり強調ですよね。ぼくはイギリスに30年いるのですが、話のついでに改めて尋ねてみても、周りの誰もがそう言います。

    Please do love me. Do love me, love. Love me, do. どれも同じ意味ですよね。会話で Love me, do. と言うことは稀でしょうが、それでも皆無とは言えません。歌詞では、流れとしてこれが自然だったのでしょう。

    「まず普通に会話で、doを“強調”として使うことは100%ない。」

    強調の do は、会話でもごく普通に使われています。"Do come in !" "I do like The Beatles." などなど。。

    質問されたイギリス人の方は、おそらくその場では思いつかれなかったのでしょう。日本人も同じですが、簡単に「絶対に、、、だ」と言い切る人はイギリスにも多いです。もう一度尋ねてみられれば、ぼくと同じ答えになると思いますよ(笑)。

    "A hard days night" や "Tomorrow never knows" も特別に不自然な言い方だとは思いません。

    すみません、ちょっと気になりましたので。


    Re: No title

    こんにちは。初めまして(ですよね?以前にも2人の通りすがりさんが来られたもので)。
    コメントどうもありがとうございました。

    > "Love me do"  についてですが、これはやはり強調ですよね。ぼくはイギリスに30年いるのですが、話のついでに改めて尋ねてみても、周りの誰もがそう言います。

    そうですか。情報どうもありがとうございます。

    > 質問されたイギリス人の方は、おそらくその場では思いつかれなかったのでしょう。日本人も同じですが、簡単に「絶対に、、、だ」と言い切る人はイギリスにも多いです。もう一度尋ねてみられれば、ぼくと同じ答えになると思いますよ(笑)。

    そうなのかもしれないですね。
    来年また会う機会があると思うので、その際に今回のお話を引き合いに出して尋ねてみようと思います。

    僕自身は英国人でないし英語を専門にしているわけではないので「強調」かどうかは全くわかりません。ですので、あくまでこのような話を紹介するしかできません。
    そういう意味で、2つの異なる見方があることはわかったところです。
    知り合いの英国人が意見を取り下げれば「強調」で落ち着くことになります。

    > "A hard days night" や "Tomorrow never knows" も特別に不自然な言い方だとは思いません。

    これは、“となると、「A hard days night」や「Tomorrow never knows」みたいなBeatles特有の言葉遊びの一つなのかなと思えた。” に対するものですね。知り合いの意見でなく、僕の思ったことです。

    ただし、僕も不自然な言い方だと思っているのではないのです。
    彼らがタイトルとしてそれを選択した40数年前においては、何か面白い言い回しだったのだろうと考えていました。タイトルっぽく響くキャッチーなものと言う意味です。

    そしてまた、今ではそれが不自然でないとしてもおかしくないと思えます。Beatlesの曲名そのものが広く浸透して(先ほども書いたとおり)40年以上も経過しているので。
    最近の日本でも、新しい造語やちょっと変わった言葉の使い方が登場してきても、1年以上も経てばあまり違和感を感じなくなります。中には消えていくものもありますが。
    プロフィール

    JD

    Author:JD
    自分の感覚としては(昔の?)ラジオDJのネット版のようなもののつもり。今、世界で日本だけが7インチ「シングルSingle」盤のことを誤って「EP」と呼ぶような有様となり、言葉の不理解と誤用の蔓延に落胆している。「EP」は「シングル(=片面1曲、両面で2曲収録)」よりも曲数を多く収録する(標準は4曲)意味のExtended Playの略で、両者は別の仕様だ。どうかSingleとEPとを正しく使い分けて欲しい。

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