Dynamic range

    *追記:2009年のremaster CDについてもダイナミックレンジ比較に加えた


    ダイナミックレンジは、オーディオファンであれば知っている基礎的な用語の一つ。
    最小音量と最大音量の差(幅)を示すものだ。

    演奏者が音にニュアンスをつけて強く弾くあるいは弱く弾くことで、演奏にめりはりや盛り上がりをつける、そのダイナミズムの幅(大きさ)を示している。生楽器や生歌の方が電子楽器やエフェクトを通した音よりもダイナミズムの大きな表現ができる場合が多い。



    でもロックバンドであっても、ボーカリストやバンド全体で、曲をどのように盛り上げていくかなど決めてアレンジしていれば、おのずとそのような演奏になる。

    The Whoの2度目の来日公演を観た人は、曲の中でメンバーが音量を操りながら緩急をつける演奏を味わったことだろう。でも、あれは大音量で演奏されているからこそ成り立つとも言える。

    録音された音の場合、再生音量を生のステージほどの大音量で聴けるなんてことはほとんどないだろう。それゆえ、ある程度は実際よりもダイナミックレンジを狭めたマスタリングを施すことは避けられない。

    CDのマスタリングに関して、最初から最後まで常に最大音量・強い音圧にしてしまう(リ)マスタリングが1990年代後半から10年以上続き、それに気づいたオーディオファイルがその傾向を「ラウドネスウォー」と呼んだ。
    当時もてはやされた音圧の高いCDがまさにそれだった。
    その場合、演奏者の息遣いや微妙な演奏のニュアンスは正しくは再現されない。マスタリング時のリミッター使用で常に高い音圧に処理されるために、それまで弱音で聞こえづらかった音が(音の隙間を生めるために自動的に大きくなり)聞こえるという点からも、演奏のニュアンスが再現されないことがわかるだろう。

    でも、ラジオや有線で流れる際に他よりも大きな音になり目立つことから、商業的にその方向へと進んだ。

    その傾向に軽くブレーキをかけたのがBeatlesの2009年のCD再発の際のリマスタリング作業(特にMono boxのそれ)だったものの、僕の記憶では2010年以降も音圧の高いCDは発売され続けていたし、Beatlesの再発stereo CDも初期CDほどにはダイナミックレンジを優先している印象は薄い……実際に比較はしていないのだが
    *SGT1曲目での比較によると、87年CDに次いで良い結果だった

    ちなみに、80年代の初期CD~90年代初頭までのCDの場合、アナログ音源のCD化に際しては、マスターテープのダイナミックレンジに手を加えず、さらに最大音量にも余裕を持ったものが多かった。

    当時日本で国内アーティストのデジタルマスタリング作業を行っていたという人(昔の仕事関係での知り合い)の話を10年ほど前に聞いた時、最大音量に余裕を持っていた理由は、デジタル変換する際に音に歪が出ないようにとの配慮と、そもそもデジタルにはアナログテープのようなヒスノイズが無いのだから(アナログと違って)音が歪みかけるぎりぎりのレベルで録音する(=アナログ音源をデジタルにトランスファーする)必要などなかった、と話してくれた。

    カセットやオープンリールで録音を経験したことのある人にしかわからないが、アナログ録音はテープヒスノイズをできるだけ目立たせないように録音レベルを設定する。イメージ的には歪みかける手前ぐらいのところ。瞬間的に0VUをオーバーしてもアナログテープ自体が独自のコンプレッションの役割をし、ほぼ歪みを感じないような録音が可能だ。デジタルとは違う。

    そのように、初期CD~90年代初頭(あるいは半ば)までは、余裕を持ったトランスファーが行われていて、アナログ盤のCD化に際しては、ほぼフラットトランスファーと言えるように思う。だから、ダイナミックレンジ重視の場合には、初期CDは選択肢の一つになる。
    また、初期CDには、後のマスタリングで使用されていくノイズフィルターやデジタルリミッターではノイズ扱いされ削除される音(=空間成分)が残っている場合が多い。

    このところ自分のオーディオ環境を記しているように、ようやく僕のオーディオもダイナミックレンジがとても重要であることをわからせるような再生音になり、よく初期CDの見直し(聴きなおし)をしている。当時のCDは、A/D変換のクオリティで今よりも劣る部分はあると感じるものの、演奏のダイナミズムとの引き換えでどちらを選ぶかといわれた場合、僕はダイナミズムを選ぶようになってきた。

    最後に、ちょっと思いついたので、BeatlesのSGTタイトル曲のダイナミックレンジを3枚のCDから調べてみた(数値が大きいほどダイナミックレンジが大きい)。スキャン範囲は白色部分。演奏部分でのダイナミックレンジを比較するため、ブラス間奏が終わった後からを比較対象範囲にしてある。それぞれクリックで拡大。



    1987original.jpg
    *1987年の初CD化より
    1999YSSCD.jpg
    *1999年Yellow submarine songtrackより
    2017remix.jpg
    *2017年Remix stereoより

    99年のYellow submarine songtrackはラウドネスウォー協賛CDであるが、ダイナミックレンジは思ったよりも大きかった。

    [追加]
    2009CD.jpg
    *2009年のremaster CDより、87年CDに次いで良い結果とわかった。




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    テーマ : オーディオ
    ジャンル : 音楽

    tag : ダイナミックレンジ ラウドネスウォー マスタリング CD ダイナミズム

    コメント

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    No title

    JDさんこんばんは。

    ダイナミック・レンジ。出始めのCDのインナーに必ずこの「ダイナミック・レンジ云々」が書いてあったことを思い出します。「dB〜dBまでをピアニッシモからフォルテまで表現出来る」的なことがずっと書いてあり、意味がわからないまま「なんかすげぇ」って圧倒されていました(笑)。

    カセットテープにLPやCDから録音をしていた頃は、確かに録音レベルをギリギリまで高めるのは非常に戦いでした。マスタリング・エンジニアよろしくレベルメーターを睨んで、このアルバムの録音レベルはこれぐらいかという目星をつけ、腕組みをして録音を始める。メーターが派手に振り切ったらやり直し、、みたいな。(懐かしい、、)

    ひと昔前、初期CDを44.1kHz16bitのAIFFリッピングして、波形をいじって自分リマスタリングしていたことがあります。確かに初期のCDはCDのダイナミック・レンジを全然使いきっていなかった盤が多数あった記憶があります。そんなに大きな音も入っていないのにレベルが物凄く低いCDが。しかし、それもCDの特性を利用したマスタリングであったわけですね。

    私も音圧をあげたり、ノイズフィルタリングすることによる弊害が思った以上に大きいことに気づいてからは初期CDをたびたび購入したりして、むしろそちらを常に聴いたりしています。安価ですしね。

    あー、この辺の話はもっとたくさん語れそうです。

    Re: No title

    Columbiaさん、おはようございます。

    > ダイナミック・レンジ。出始めのCDのインナーに必ずこの「ダイナミック・レンジ云々」が書いてあったことを思い出します。

    はいはい、書いてましたね(笑)。

    > カセットテープにLPやCDから録音をしていた頃は、確かに録音レベルをギリギリまで高めるのは非常に戦いでした。マスタリング・エンジニアよろしくレベルメーターを睨んで、このアルバムの録音レベルはこれぐらいかという目星をつけ、腕組みをして録音を始める。メーターが派手に振り切ったらやり直し、、みたいな。(懐かしい、、)

    いやぁ、そういうこと僕もすっかり忘れてましたよ(笑)。本当にその通りでしたね。
    ただし、LPから録音する場合には盤面を光にかざして溝の明るい部分(だったかな?)が音量が大きくなる部分なので、その部分であらかじめ録音レベルを設定すれば大丈夫でした。

    > ひと昔前、初期CDを44.1kHz16bitのAIFFリッピングして、波形をいじって自分リマスタリングしていたことがあります。確かに初期のCDはCDのダイナミック・レンジを全然使いきっていなかった盤が多数あった記憶があります。そんなに大きな音も入っていないのにレベルが物凄く低いCDが。しかし、それもCDの特性を利用したマスタリングであったわけですね。

    実は恥ずかしながら、90年代後半のremasteringでようやくCDの器を生かしたマスタリングがなされ出したのかなと当時思い込んでました。20ビットでマスタリングして、それを16ビットに変換する方式やSonyのSBM方式など、各社いろいろと取り組んでいたので。
    でも、音量や音圧が大きくなったことをダイナミックレンジが広がったと誤解していたわけですね(本当に恥ずかしい)。SBM方式では空間情報がノイズ扱いになり削除されたかもしれません。

    今回の比較グラフでわかりますが、かなり余裕を持ってトランスファーされた音量の小さい初期CDが一番広大なダイナミックレンジを持っていました。逆に、やはり2017年remixが一番駄目でしたね。まぁ、あれはマスタリングよりもリミックス作業で音を圧縮したせいだと思いますが……。

    > 私も音圧をあげたり、ノイズフィルタリングすることによる弊害が思った以上に大きいことに気づいてからは初期CDをたびたび購入したりして、むしろそちらを常に聴いたりしています。安価ですしね。
    > あー、この辺の話はもっとたくさん語れそうです。

    そのあたり、Columbiaさんのブログでも是非紹介してください。
    楽しみにしています!

    無圧縮

    よい話題ですねw

    私の作品のリスナーさんや関係者さんには、現在主流となっている日本音楽的マスタリングに逆らうような、音に拘りのある方が何故か多く、私も交流の過程で色々勉強させられたことが多いです。

    先日の自分のライブでも熱く語ったのですが、僕ら制作側は、製作&ミックス作業のときには当然「非圧縮で」行ってるわけでして、正直リスナーさん側の「非圧縮で聴きたい」という切実性が「まったく」判っていませんでした。
    なんというか、非圧縮な状態は、例えばワイン工場見学で出される樽からの試飲とか、ビール工場の試飲、みたいな感じなのですね(個人的な意見です)。だから、それを売り物としてパッケージ化するには、例えば「キャラメル包装」みたいな処理は必要だと「当然のように」考えてて、なので圧縮化されたCDも「そういうもの」と思っていたのです。なので、所謂「ナマ」を聴きたい!という要望は本当に目からウロコでした。

    このブログで詳細を書いていますが(songs and words - http://karakawa.cocolog-nifty.com/egm/2016/04/pcm-transfer201.html)、ダイナミックレンジを狭めないソースで聴きたい!という希望そのものが、こちらの発想になくて、本当にびっくりしたし新鮮だったのです。
    そしてこれをハイレゾでリリースしたときの反響もすごくて、やってよかったなと思いました。

    ひとつ思ったのは、これらのシリーズは「旧譜のリマスター」なのですね。これが「新譜」で可能になったとき、また時代はひとつ変わるのでしょう。と思いました。

    PS
    僕自身はラジオでヒット曲を聴いてた世代でもありますし、適度にコンプされた音源が好きなんですね。だからマスタリングで圧縮されるという過程も、自分が馴染んだラジオの音だ!と受け入れていたのです。

    Re: 無圧縮

    karakawa-pさん、こんにちは。

    > 私の作品のリスナーさんや関係者さんには、現在主流となっている日本音楽的マスタリングに逆らうような、音に拘りのある方が何故か多く、私も交流の過程で色々勉強させられたことが多いです。

    そもそも、日本音楽(所謂J-pop)のマスタリングは、かなり早くからとんでもない設定だったような印象があります。再発ものでなく、90年代ものです。CDプレーヤーの光アウトからDATの光インで受けてレベルを見ると、ほとんどレベルメーターに強弱がなかったような……友人が持参したCDでした。

    > 先日の自分のライブでも熱く語ったのですが、僕ら制作側は、製作&ミックス作業のときには当然「非圧縮で」行ってるわけでして、正直リスナーさん側の「非圧縮で聴きたい」という切実性が「まったく」判っていませんでした。

    そういう要望は僕も聞いたことがないですね。
    それなりのオーディオ装置を持っていないと、そのような発想にはなりにくいように思えます。

    > このブログで詳細を書いていますが(songs and words - http://karakawa.cocolog-nifty.com/egm/2016/04/pcm-transfer201.html)、ダイナミックレンジを狭めないソースで聴きたい!という希望そのものが、こちらの発想になくて、本当にびっくりしたし新鮮だったのです。
    > そしてこれをハイレゾでリリースしたときの反響もすごくて、やってよかったなと思いました。

    それは本当にすごい話ですね。ちゃんとHi-Res市場が育ってきているってことなのでしょうか?

    > これが「新譜」で可能になったとき、また時代はひとつ変わるのでしょう。と思いました。

    オーディオ雑誌を読む限り、マイナーレーベルではHi-Resの器を活かす録音~マスタリングを行っているところがあるみたいですよ。

    > PS
    > 僕自身はラジオでヒット曲を聴いてた世代でもありますし、適度にコンプされた音源が好きなんですね。だからマスタリングで圧縮されるという過程も、自分が馴染んだラジオの音だ!と受け入れていたのです。

    僕もアナログ録音の作品に関しては、同様だと思います。
    何よりも苦手なのは、デジタルマスタリングの際のリミッターの強いやつですね。それによって失われる音情報はアナログマスタリング時のコンプレッサー使用の比ではないので。
    再発もので、以前聞こえにくかった音が聞こえたら、それは音が良くなったのでなくダイナミックレンジを狭められた?と疑うほうが先ですね(苦笑)。



    No title

    ありがとうございます。
    なるほど、アナログの場合は「コンプも含めての楽器」みたいなところがあるので、また違うのでしょうね。またラジオはラジオならではの独特の質感があり、それが好きだったのだと思います。

    この無圧縮シリーズをやってたとき、同業の友人と「音圧競争はいつごろか始まったか?」ということを振り返ったことがあるのですが、おそらくきっかけは90年代初頭のビーイング系からではないか、という話になりました。そこからエスカレートし、90年代終わり頃の爆音海苔波形になったという感じですよね。
    音圧競争は辛いものがありましたよ。というのは一般の方は「音が小さい=音が劣っている」と捉えるのです。当時何人もの人に言われたのです。「あなたの作っている音楽は音量が小さいから聞きづらい」などと。それをマスタリングの違いということではなく「売ってるCDより劣っているから」と取られてしまうのです。これは本当に屈辱で、こちらも悔しいので音圧上げにこだわった時期がありますね。こればっかりは、一般向けのことを考えると避けられなかったのですね。
    そう考えると今は、こうして主張も出来ますし、少しはマシになったという気はします。

    Re: No title

    karakawa-pさん、こんばんは。

    > なるほど、アナログの場合は「コンプも含めての楽器」みたいなところがあるので、また違うのでしょうね。

    まさに、ロックに関してはそのように考えておかしくないと僕は思っています。アーティストやレーベルごとに狙った音があったので。

    > おそらくきっかけは90年代初頭のビーイング系からではないか、という話になりました。そこからエスカレートし、90年代終わり頃の爆音海苔波形になったという感じですよね。

    爆音海苔波形!素晴らしい表現です。大笑いしてしまいました!
    90年代後半だったかな?オーディオ雑誌にも、日本音楽のマスタリングのひどさを嘆いているエンジニアの声が掲載されていたように記憶しています。
    曲もサウンドも似たり寄ったりのものが売れて、マスタリングまで爆音海苔波形だったのではと思えます。

    > 音圧競争は辛いものがありましたよ。というのは一般の方は「音が小さい=音が劣っている」と捉えるのです。当時何人もの人に言われたのです。「あなたの作っている音楽は音量が小さいから聞きづらい」などと。それをマスタリングの違いということではなく「売ってるCDより劣っているから」と取られてしまうのです。

    それはかなりへこみますね。大変だったことでしょう。
    実際人の耳は、大きな音に聞こえると音が良いと思う傾向があるようなので、非常に難しいところではありますね。

    > そう考えると今は、こうして主張も出来ますし、少しはマシになったという気はします。

    今でもAmazonのレビューを読むと、「音圧が上がった=音が良い」と誤解している人をそれなりの比率で見かけるので、状況は改善しているものの、まだまだ誤解しているリスナーは多いと思います。

    でも、少しはマシになっているのでしょうね。確かに、こうして主張できるのだから(笑)。



    プロフィール

    JD

    Author:JD
    自分の感覚としては(昔の?)ラジオDJのネット版のようなもののつもり。僕は1970年代のオーディオ全盛期の最後に属する世代で、ペアマイク持参で生録に挑戦した世代。国内盤LPが高価だったので輸入盤を買っていた、そういう中高生時代を過ごした。

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